出ポタ記

日々思ったことの日記など

落伍家のいうことには

吾輩は落伍家である。

名前は教えない。恥ずかしいからである。

落伍家の道を究めんとし、早30年になる。

年齢は教えない。恥ずかしいからである。

結婚はしていない。

落伍家に伴侶は不要である。恋もしない。

落伍家には落伍家としての生活があるので、俗世の娯楽とは無縁である。

ふはは、恐れ入ったか。

 

もう既に「落伍家」がゲシュタルト崩壊しているだろうと思う。すみません。

この駄文を読んでいる奇特な諸兄の中には、「落伍家」という職業を知らない人間も多いのではないだろうか。それは別に悪いことではない。まだ見ぬ知識や知らないことを知ることが、アナタの世界を広げてくれるのです。これからゆっくり知っていけばよい。

というわけで、今回は皆さんにも正しく落伍家を知ってもらうために、吾輩直々に落伍家がどんな職業なのかを説明してみようと思う。

ちなみに語感から落語家でしょ?とよく間違えられるが、似て非なるものである。

ちなみにこの質問をされるのはもう、マジでかなりうんざりしている。ので、この文を読んでキッチリと学んだ後、今後もし他の落伍家と出会っても絶対に同じ質問をしないように。彼もまたうんざりしているだろうから。

 

さて、落伍家は自由業である。

基本的に「どこかの企業へ属す」という選択肢はない。所謂フリーランス個人事業主とも言う。

個人がメディアの発信を容易く行える現代社会、どこかに帰属し身を置くことが必ずしも是ではない。落伍家は常に時代の最先端を走っている。

 

落伍家は店舗を持たない。我が身一つである。なので、必要経費はさしあたって人間1人分で良い。非常に身軽な身分である。

そして店舗がないということは裏を返せば、いつでも好きな時、好きな場所で開業できるという意味でもある。それこそ駅前でも高架下でも、人が集まる場所ならどこでも構わない。

オマケに物理的な売買取引を行うわけではないため、出店にあたって自治体への特別な申請を必要としない。

うむ、では落伍家は何を売るのか?と思う方もいるだろう。が、それは今関係ないことです。


落伍家は儲からない。金とは無縁である。

基本的に出費が収支を上回ることが多く、結果としてマイナスになる場合もしばしば見受けられる。ただそれこそが落伍家の落伍家たる由縁であるので、どうか目を瞑っていただきたい。何卒。


落伍家はキャリアに拘らない。中卒、高卒、犯罪者、元組員、なんでもござれ。あなたの街の落伍家でございます。

 

ここまで読んでみて、私も落伍家になりたい!と、お思いの諸兄も多いだろう。

ただ落伍家は「キャリアに拘らない」とはいったが、実際になるには相応の覚悟と勇気が必要である。なぜなら落伍家として生涯生きていくことは大変に難しいからである。


そもそもまず一見してストレスフリーに見えても内在するストレスは相当なものである。

それも今日寝る場所やら明日食べるものやら、餓死や凍死の心配…といった、とても令和の世とは思えない、生活に根付いた強力なストレスである。落伍家は基本的に金がないので、このストレスばかりは落伍家であれば絶対に避けられない。

「落伍家だから仕方ない」と、その一言が言えたらどんなにいいだろう。まぁここでその一言が出る人間こそ真に素質のある人間である。吾輩?もちろん出たよ。


無論、人によって適正諸々もある。が、それら全てを勘定に入れても、真に「落伍家」として寿命を全うできる人間は一握りだ。

みんな大抵途中で死ぬ。或いは自分に嫌気がさして他の真っ当な道を選ぶ。落伍家の道は険しい。

そりゃ、こんな親の死に目にも立ち会えない

因果な仕事である。

本気で落伍家として堂々と生きていける人間がそうたくさんいられたら社会なんか上手くなりたっていない。

小学生から野球をやっている少年が20年後メジャーリーガーとして大成するほうが、まだ確率的に高いだろう。

もし例えば神様という存在がいたとして「落伍家になれる人間が出生する確率」を定めていたとしたら、なかなかの手練れである。敬ってやってもよい。

そしてその道を30年に渡って、ほぼ独走状態を貫いてきた吾輩もまた、相当敬われていい人間であろう。自分で誇るのも些か気恥ずかしいが、まぁ落伍家なので調子に乗ったりもする。褒めてくれ。吾輩はすごいです。


ちなみに、落伍家は現代ではもっとストレートな言い方で表される場合が多い。これは非常に刺激の強い言葉であるから、一度しか言わない。

「クズ」である。

 

えー。長々と説明失礼した。

ただ最後に途中で飛ばして、一つ教えそびれたことがある。ここまで読んでくれた賢い諸兄はピンときただろう。

そう「落伍家は何を売るのか?」という問いだ。

 

さて、この答えは至極単純。

落伍家は何を売るのか。

落伍家は「油」を売っているのだ。