俺はシーラカンスの美味しい食べ方を知っている。
まぁ…世界中探しても、こんな知識があるヤツはそういないだろうね。
だって誰も食べようとなんてしないんだもの。勿体無いよな、あんなに美味しい魚をさ。
よく「あんな古代の魚、煮ても焼いても食えやしないよ」なんていうこと言うヤツがいるじゃない。
ハッキリ言うけどあんなの都市伝説だよ。
食ったことないヤツが言う戯言なんだ。
現に俺は食ったからさ。かなり美味かったよ。
身は…そうだな…白身魚みたい。でもよく引き締まってて、脂が乗ってる。
これがたまらないんだよ。特に骨の近くの部分。あそこの旨みたるや、痺れたね。
まろやかで、コクがあって。舌触りは柔らかく、ほんの少しだけ甘みがあるんだ。
多分アレは酒に合うんじゃないかな。
うん、特に日本酒なんかバッチリだろうね。
銘柄は…俺よく知らないけど、多分なんでも合うんじゃないかな。どんな安い日本酒だって、ツマミ一つでいくらでも味が化けるっていうでしょ。
美味しいツマミは酒の味まで変えてしまう。
こんな魚、他にいるか?いないよな。
そうだな、あとはワインなんかドンピシャだろうね。
なんていったって、ワインって酒は魚介類とめちゃくちゃ相性がいいんだぜ。イタリア料理が証明してるだろ。そのへんは。
この場合はさっきの日本酒と逆で、ワインがシーラカンスの風味を変えちゃうんだよ。
魚介の独特の風味を中和して、旨味だけを引き出してくれるんだ。
このワインとシーラカンスの関係性ってのは、まさにジョンとポールって感じだよな。
そのこころは?ハーモニーが最高だろ。
はは。座布団1枚?
…なんて酒のことばっかり色々書いたけど、俺実は酒が飲めないんだよ。
だから醤油かけてごはんに乗せて食べたんだ。
正直控えめにいって、これが一番美味い食い方だと俺は思うよ。
まったく、このシーラカンスって魚は米とも相性がバツグンなんだよ。東洋の外れの島国の農作物とだぜ?すごい数奇な話だよな。
もし仮に神様って存在がいるんなら、まぁまぁいい仕事したと思うよ。
一般的に「奇跡」って、こういう事を表すためにある言葉なんじゃないかな。多分。
そうそう、忘れちゃいけないのがもう一つ。
シーラカンスは白身だから当然ポン酢にもめちゃくちゃ合うんだな、これが。
こう、とれたてのシーラカンスの身をさ、薄く切って刺身にするじゃない。
でさ、ポン酢を小皿に入れて、そこに柚子なんか搾っちゃったりするわけ。
そこにそっと刺身をつけて口に入れた日にはアンタ、もう世の中の常識なんか簡単にひっくり返っちゃうよ。
俺なんて「あぁ、俺がこの年まで積み上げてきた常識は、今日この場でひっくり返すためにあったんだな」とか、くだらないことまで考えちゃったりしてね。
今思うと俺バカじゃないか?って思うけど、初めて食った時は素直にそう感じたね。
まぁ、あんな美味い魚は他にないよ。
でも問題がいくつかあってさ。
まず、ちょっとばかり骨が多いんだよな。食べるときに骨をいちいち取りながら食べるからさ。アレはなかなか面倒くさかった。先に身をほぐしておくことをオススメするね。
あとは皮だな。あの皮がまた結構ぶ厚くてさ、食べるときにやっぱり少し大変だった。骨と一緒で、避けながら食べなきゃいけないしさ。なにより火がなかなか通りにくいんだよな。あの皮は本当に厄介だった。
それに泥ぬきなんかもすごい大変なんだ。
下調理をちゃんとしないと食えたもんじゃないよ、正直。めちゃくちゃ泥臭くてさ。
せっかくこれだけ美味い魚なのに、美味しく食べるために手間がかかりすぎるっていうんだから、本当に罪な魚だよな。
そもそもシーラカンスなんてさ、釣りなんかで簡単に獲れる魚じゃないんだよ。海底のすごい奥深くにいる深海魚なんだから当然なんだけどさ。
漁獲用のバカでかい網で海底をドブさらいして、たまに引っかかるようなレベルの魚なわけ。
おまけに日本で獲れる魚じゃないからアジアのどこか…太平洋沖とか、よくわからないけど…ああいう広い海まで出ないと遭遇すらできないんだ。ここまで色々書いてきたけど、結局獲れなきゃしょうがないんだよ。
どれだけ美味くても、どれだけ食いたくても、
釣れないんじゃ意味ないってわけ。
本当にしょうもない話だろ。
まぁ一番しょうもないのは、地元の友達に「これシーラカンスの刺身だぜ」「美味いだろ?シーラカンスって食えるんだぜ」なんて騙されて、ホンモノを食ったような気になった挙句、こんな駄文を書いてる俺なんだけどさ。
結局俺が釣れるものなんて、こんな駄文をここまでダラダラと読んでくれたアンタぐらいってわけ。
しょーもない話だよ。まったく。